自治体のキャッシュレス決済導入メリット・デメリットは?種類や事業者の選び方も紹介
近年、自治体でもキャッシュレス決済を導入するケースが増えています。自治体での窓口業務の改善や効率化、住民にとっての利便性向上に有効ですが、一方で初期コストや運用の手間も考慮しなければなりません。本記事ではキャッシュレス決済導入のメリットとデメリットを解説し、実際に導入した自治体の事例も紹介します。
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自治体のキャッシュレス決済の導入メリット
キャッシュレス決済の導入は、自治体にさまざまなメリットをもたらします。
なかでも、行政を効率化させることによる住民へのサービス向上が期待されています。
ここでは、自治体がキャッシュレス決済を導入する具体的なメリットについて詳しく見ていきます。
事務負担の軽減につながる
自治体がキャッシュレス決済を導入することで、事務作業を効率化できます。
従来の現金管理では集金、精算、銀行への預け入れなど多くの作業が発生しますが、二次元コードやスマートフォンのタッチで会計が可能になることでこれらの作業が大幅に削減されます。
特に窓口でのサービスでは現金のやりとりが行列の原因になることもあるため、キャッシュレス化によりスムーズに市民への対応が可能になるでしょう。
またキャッシュレス決済ではネットワーク上に電子的な記録が自動的に残るため、会計処理や監査もスムーズに行えるようになります。
利用データが蓄積されることで、住民のニーズを把握しやすくなるのもメリットです。
会計トラブルを防げる
キャッシュレス決済の導入は、会計トラブルの防止にもつながります。
二次元コードやタッチ決済を利用することで、現金取り扱いの際に発生しがちな数え間違いやお釣りの渡し忘れを未然に防げます。
また決済情報が自動的に記録されるため、誰からいくら受け取ったのかを後から確認することも可能です。後々の確認作業も容易になり、業務効率も向上します。
万が一の際には手元に現金がないことで盗難・不正防止にもなることから、防犯の面でもキャッシュレス決済が注目されています。
利用者である住民の利便性が向上する
キャッシュレス決済の導入は、住民にも多くの利便性を提供します。
24時間365日いつでも支払いが可能になるため、公共機関の営業時間に縛られることなく、スマートフォンやコンビニからでも手続きが行えます。窓口の行列に並ぶ必要もないため、これまでのように仕事や家事の合間をぬってわざわざ役所に行く必要もなくなります。
またスマートフォンアプリやICカードを利用した決済が普及することで、現金を持ち歩く必要がなくなり、紛失や盗難などのリスクも抑えられるでしょう。
さらに自治体によってはキャッシュレス決済利用時に独自のポイント還元や特典サービスを提供しているケースもあり、地域の活性化につながっています。
自治体のキャッシュレス決済の導入デメリット
キャッシュレス決済の導入には多くのメリットがありますが、一方でデメリットも存在します。
比較的新しいサービスであるため、システムトラブルや利用者のデジタルリテラシーに関する知識は当面の課題です。
ここでは、現時点で自治体がキャッシュレス決済を導入する際の主なデメリットについて見ていきます。
停電や故障などのトラブル時に使用できなくなる
キャッシュレス決済のシステムを利用するためには、電力供給やインターネット接続があることが前提です。
そのため停電やシステム障害が発生した場合には、決済ができなくなるリスクがあります。
特に災害時や緊急時にはこの問題は深刻で、多くの機能が停止し住民の混乱を招く可能性があります。
自治体はこうしたトラブルに備え、バックアップシステムや代替手段の準備を行う必要があります。
利用者が限られる場合がある
キャッシュレス決済の普及には、住民のデジタルリテラシーやインフラ環境が影響し、利用者数が限定されることもあります。またインターネット接続が不安定な地域では、キャッシュレス決済の利用が制限されることも考慮しなければなりません。
高齢者やデジタル機器に不慣れな人々にとっては、キャッシュレス決済の導入までの手続きやスムーズな使用が難しいことが考えられます。
デジタル製品になんとなく「難しさ」を感じている人もいるため、より幅広い普及を促すためにはフォローアップも必要です。
例えば全住民がスムーズに使用できるよう、キャッシュレス決済の使用方法を伝える機会を設け、住民の疑問に答えるためのサポート体制を整えることなどが考えられます。
また買い物がお得になるキャンペーンなどを企画し、導入のきっかけを作る試みも必要でしょう。
【自治体向け】キャッシュレス決済方法の選び方
キャッシュレス決済にはさまざまな種類があります。各手段の特徴を理解し、住民のニーズに合った方法を選ぶことが大切です。
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クレジットカード
クレジットカードは、利用額に応じてポイントが還元されるため住民にとってはお得な決済手段です。加盟店手数料が比較的高いことがデメリットで、3〜10%近くかかることもあります。
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デビットカード
デビットカードは、支払いと同時に利用額が即座に引き落とされる決済方法です。ただし、利用者の口座残高が不足している場合は使用できません。手数料は1〜2.5%程度が相場です。
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電子マネー
電子マネーは、ICカードやスマートフォンを用いて簡単に支払いができる決済方法です。交通系のICカードは広く普及しているため、多くの人にとって使いやすい決済方法といえます。手数料は1.5〜3%ほどです。
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コード決済
コード決済は、スマートフォンの画面を提示するだけで支払いが完了する決済手段です。バーコードや二次元コードを使用するため、専用の端末を必要とせず、導入コストを抑えられます。手数料も安く、独自で発行する「ハウスマネー」であれば1%以下に抑えられるケースもあります。
また、決済手段を検討する際には住民の利便性についても考慮しましょう。
一つの方法にこだわらず、複数の決済手段に対応することでより多くの住民が利用しやすくなるでしょう。
最近では、1枚の二次元コードで複数の決済に対応できる「JPQR」を導入する自治体も増えています。
【自治体向け】キャッシュレス決済事業者(決済代行会社)の選び方
決済事業者にはクレジットカード会社や電子マネー事業者、複数の決済ブランドを仲介する決済代行会社があります。
数ある業者を選定する際には、以下の3点に注目します。
- 対応する決済手段
- 提供している決済端末
- 手数料
まずは自治体で導入したい決済手段を軸にして、対応している業者を絞りましょう。
その後、提供される端末と事業との相性や、加盟店手数料などを比較して検討します。
参考までに、それぞれの決済端末の特徴を記しました。
- プリントQR型:設置された二次元コードを利用者に読み込んでもらうことで決済が完了します。多くの決済アプリに対応しているため、初期投資を抑えたい場合に有効です。
- モバイル型:小型で設置スペースを取らないため、小規模な店舗やイベントでの使用に便利です。
- タブレット型:持ち運びが可能で、レジがない場所でも手続きができるため、外部でのイベントや移動の多いサービスに適しています。
- 据置型、POS連動型:据置型やPOS連動型は、レジと連動しているタイプの比較的大きな決済端末です。安定した動作環境を必要とする場面に適しています。
自治体のキャッシュレス決済の導入事例
ここからは、実際にキャッシュレス決済を導入した自治体にスポットライトを当てて紹介します。
東京都三鷹市
三鷹市では新型コロナウイルス感染症対策として、市民課にキャッシュレス決済とセミセルフレジを導入しました。
セミセルフレジは、職員が費目や数量を入力し、市民がキャッシュレス決済や現金投入を行う決済方法です。
以前より市民からキャッシュレス対応への要望があり、導入後は本庁舎での支払いの約18%がキャッシュレスで行われるようになりました。
また窓口では、利用可能な決済手段をパネルで表示し職員が直接声かけを行うことでキャッシュレス利用の機会を増やしています。
さらに指定納付受託者からの月次入金に対応し、窓口の締め処理も月次で行えるように会計事務規則を変更するなどソフト面での対応も行っています。
今後は名前を書くだけで手続きの完了する「書かない窓口」の実現を目指し、オンライン申請なども積極的に推進していく予定です。
埼玉県白岡市
白岡市では新型コロナウイルス感染症対策として、2021年11月から市民課と税務課にセミセルフレジの導入を進め、現在では会計課や白岡駅の連絡所にも設置が進んでいます。
それぞれのレジはキャッシュレス決済にも対応し、特に会計課では高額な納付書の取り扱いが多いため、職員の負担軽減にもつながっています。
また、リテラシーの向上にも力を入れています。
導入に際しては市の広報媒体やSNS・窓口での周知を行い、市民の理解を深めました。実機を使った研修環境を整えることで職員の操作習熟を図り、新しい職員もスムーズに利用できる状態となっています。
今後は、他の課におけるセミセルフレジやキャッシュレス対応の拡充も検討しており、市民のフィードバックを参考に社会的なDX推進の状況に合わせていく方針です。
福岡県福岡市
福岡県福岡市は、行政手続きのオンライン化を推進するDX施策の一環として、キャッシュレス決済の導入を積極的に進めています。
公共施設では以前よりLINE Payを導入しており、令和3年にはさらなる利便性向上と感染症対策としてキャッシュレス決済の種類を大きく拡充しました。
現在、市内の公共施設ではVisaやMasterCardを含むクレジットカード、交通系ICカード9種類、WAON、nanaco、そしてLINE Pay、PayPay、楽天ペイなど約30種類のキャッシュレス決済が利用可能です。
さらに定期的にキャンペーンも行っており、特定の施設を利用することでポイント還元が受けられたり、オリジナルアイテムがプレゼントされたりするなど、魅力的な買い物体験も提供することで利用者も増えてきました。
さまざまな決済方法が使えることで幅広い市民のニーズに対応できるようになり、多くの人が公共施設をこれまで以上に便利に利用しています。
キャッシュレス決済の導入なら「独自Pay」
公共施設の中でも、繰り返し利用されることが多い場所でキャッシュレス決済を導入するなら、「独自Pay」がおすすめです。
「独自Pay」は、自治体が独自に発行できるキャッシュレス決済サービスです。
利用者が事前に現金をチャージするプリペイド方式のため、窓口で現金のやり取りをする必要がなく、混雑解消などの効果が見込めます。例えば、地区のスポーツ施設などでも回数券の代替として導入されています。
また他の決済手段と比較して手数料も割安なのもメリットと言えるでしょう。
地域通貨としての活用も可能ですので、興味のある自治体の方は、お気軽にお問合せください。
まとめ
自治体のキャッシュレス決済導入には、利便性向上や業務の効率化といったメリットがあります。
一方でシステムトラブルの可能性があり、デジタル決済に関する最低限のリテラシーも必要です。
決済手段はクレジットカード、電子マネー、二次元コード決済など多岐にわたります。導入時には地域のニーズや利用頻度を考慮して、どの決済手段を採用するか検討しましょう。
事業者選定においては手数料やこれまでの実績を参考にし、サポートを受けながらスムーズな導入を目指しましょう。